第2章 その1

やることがない日は街をぶらつく

陰気で最低限、寝ることくらいしかできない部屋にいてもしょうがねぇ。ただ時間を潰すために街をぶらついて、通り過ぎるやつらを心の中で毒づいた。別にそれが楽しいわけじゃねぇが、じゃあ他に何をすると言っても遊ぶ金もねぇし時間の潰し方なんてそれくらいしか思いつかなかった。

仕事なんてねぇ、そもそも人間ができる仕事がねぇ、人間より丈夫なアンドロイドがいりゃあ、そっちに任せた方が確実だ。文句もたれねぇサボりもしねぇ清潔だし容姿も端麗、勝てるわけがねぇだろうが。

時間はある、時間しかねぇ、やることがない日は街をぶらつく、つまり今日もぶらついてる、

俺は無職だからな。

 

最低限の生活は保障されてる、けど最低限だ、寝て食ってを繰り返すだけ、それ以上を求めるなら金が要る、いわゆる文化的な生活を求めるなら金が要る、金を稼ぐためには仕事をするしかないが俺にできることはなかった。

人付き合いはヘタクソだし学もねぇ。一時期、運送の運転手をしていたことがある。ドライバーに使っていたアンドロイドが事故を起こしたとかで世間の風当たりが強くなって運送業にアンドロイドが使えなくなった。その時に「これからはドライバーが儲かる、今こそ免許を取るべし」とネットか何かの記事を読んで無理して免許を取りに行った。教習所に通うにも金が要るから、それを稼ぐための仕事もした。これだけアンドロイドが普及しても毛嫌いする輩はいるもんで、そういう輩はとことんだ、店の接客担当ですら人間を求める、だからそういう輩用の店がある、そこの接客をしていた。

一言でいえば地獄だった。「アンドロイドなんてダメだ!」なんて声高に騒ぐやつが他人に気遣いなんかできるわけがなく、人間相手だろうが見下して命令してくる。それにへらへらしながらへこへこしながら働く日々だった。目的の金が溜まるまで、そう言い聞かせて耐え抜いた先の教習所もこれまた地獄だった。

「ダメ!ダメ!それじゃダメだよ柴田さん。人の手で運転すのには大きな危険が伴うんです、もっと慎重に正確にしなきゃ!」年下であろう指導担当になんど言われた事か。

これまたへらへらとすいませんを繰り返すだけの俺自身に嫌気がさしそうだったが、将来の金のためと堪えた。通常の3倍近くの時間をかけてなんとか免許を取りドライバーとして働き始めた。

そこから少しして、安全なプログラムが出来ましたとかでまたアンドロイドが使われ始め、俺は使った金とトントンかちょびっと多いくらいの稼ぎをしたぐらいで仕事がなくなった。

 

もう頑張る理由なんてない、俺は最低限の生活に身を落とした。

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