その2

富裕層の住宅区画を出て駅に近づく、が電車には乗らない。歩けない距離でもないし節約のためでもある。電車と未だに呼んでいるけれど昔のシステムとはだいぶ変わり、もう車輪もないのだけれど呼び方は据え置きで、この国のこういう奥ゆかしさというか懐古的というか大きな変化は受け入れがたいけど少しずつ変わっていくことには気づいていながらどうでもよくなっていく風潮が何とも言えない。

 

そんなどこにもいない『みんな』に思いを馳せながら歩いていると自宅近くの駅まで来ていた。電車代もケチるくらいだから食事も保証されている最低限で済ます僕だ。商店街も多くは特に素通りしていく、こんな時代でも存在し続けるアイスクリームやジュースを販売する店には毎度横目を泳がせて心の中で2,3度自分とやり取りを交わし問題なく過ぎていく。ただ一つ毎度顔を顔を出す店がある。アンドロイドの取扱店だ。

 

「よう、チョウリツさん。今日も見てってね」

もちろん『チョウリツ』とは僕の名前ではないここの店主が勝手に呼んでいる呼び方だ。僕の仕事が音楽機能調整をしていると話してから昔にあった調律師という楽器の音を調整する職業からとって『調律さん』と呼び始めた。あながち間違いではないので否定するのも名前で呼んでもらいたいわけでもないので好きにさせている。始めの頃は店内のを物色する一買い物客兼冷やかしだったのだが、あまりにも毎日顔を出すもので少しばかりの興味が出たようである日話しかけられた。もちろん彼ら商売人も生活は保障されているわけで必死に営業をかける必要はないのだがたまにこうして客と仲良くなる人もいる。僕も仕事を貰う依頼主の中には今日のように気さくに返事を返してくれる人もいれば単調に返事をしてあっさりな人もいる。もちろんどちらが悪いわけではないがコミュニケーションを取れたり感謝の言葉貰うのはうれしいので僕は気さくな人の方が好印象だ。僕自身は決して明るい人間ではないが自分が感じる印象を相手にも与えていると考えると少し無理をして明るさを演出する。

 

「最新型も入荷したし、そうだオーダーメイドのプランが安くなったんだ」

「その辺りはさすがに手が出ないですよ、安くなったって言ってもまだまだ高いでしょう?」

「そうか、まだ調律さんの貯金には届かないか、早く好みの子を見つけられると良いねぇ、運命の出逢いってやつだ」

「アンドロイドと運命の出逢いを果たすか、オーダーメイドに手が届くようになるか、はたまたリアルに運命の出逢いを果たすか、まぁ最後のは期待しないようにしてますが」

「恋人って関係性もずいぶん珍しくなっちゃったからねぇ、アンドロイドが人間と変わらなくなって自分好みに作れるようになってるからしょうがないっちゃぁしょうがないけどね」

話しながらなんとなくカウンター奥の箱が気になった。ずいぶんボロい。今使われている梱包材は傷が滅多なことでは付かず腐食もほとんどしない、つまりこのボロの箱にはかなり昔のものが入っているということかもしれない。

「すみません、そこの箱ってアンドロイドですか?」

「ああ、これね。なんでもちょっといわくつきのモノが流れてきてね、見ての通り旧世代の梱包が使われているくらい前の型で、初めての量産型のシリーズだよ。ああ、調律さんは好きそうなやつかもしれない、見てみる?」

中身を見せてもらいパッケージのキャッチコピーを読む。

どこかのカタログか何かで見たことのあるタイプだった。

「仕様書ありますか?」

「お、興味あるみたいね、どうぞ」

仕様書を受け取り流し読みをする、現在ではサポートが終了している箇所がいくつかあるけど手作業を加えれば問題なさそうだ。

「おいくらですか?」

 

僕の貯金はこの日、大きく数字を減らした。

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