その15

陽君が静かに眠った後、私は最後のお願いを叶えるために準備を始めました。

陽君は『わがまま』と言ったけれど私はそんな風には思いません。最後まで私の事を考えて選んでくれた事だと思います。自分がいなくなった後のことをアンドロイドに選ばせる人なんて他にいるんでしょうか?私は全ての人と話をしたわけではないのでどれだけ珍しい事なのかは分かりませんが、陽君は特別優しい人だと思います。平 陽、タイヨウに少し似ている名前、本当に太陽みたいに周りを明るく照らす様なエネルギーに満ち溢れた人ではなかったけど、たしかにそばに居ると陽だまりにいるみたいにあったかい気持ちにさせてくれる人。何十年と一緒にいて怒鳴ることなんて一度もなくて、あれだけよく話したのにケンカなんて一度もしないままでしたね。一回くらいあってもいいのかなって思ったりもしたけど、やっぱりしなくて良かったって思います。

落ち込んだりする時はちょつと甘えてくるところが可愛かったです。もうちょっと素直に気持ちを吐き出してくれてもよかったけど。好きな古い物を触っている時に子供みたいに笑うのが可愛かったです。一緒に歌って、いっぱい曲を作って、大切な記憶がたくさんできました。

陽君の大好きなピアノを外に置いてライブスペースの許可を取りました。手続きはタカユキくんがしてくれたよ。毎日そこで歌っています。初めは誰も立ち止まってくれなかったけど回数を重ねるごとに聴いてくれる人が増えてきました。人もアンドロイドも関係なく聴いてくれてます、色んな曲を歌うけど、もちろん陽君の曲も歌ってるよ。陽君は自信がないなんて言っていたけど、ちゃんとみんなに届いてるよ。

 

私はあなたと過ごすうちに、人間だったらと思うことが2つありました。

1つは歳を取ること。少しずつ変わっていくあなたを見て、同じ様になりたいと思いました、そうすれば私だけ残されることもなくて悲しい気持ちのまま過ごすことがないのにと。

もう1つは、涙を流すこと。

どんな気持ちになっても、そこだけはあなたと違う。とても素敵な曲を聴かせてくれても、私の名前を呼んでくれても、あなたが離れていってしまう時も。

私がどれだけ感動したか、嬉しかったか、寂しかったか、すべてを伝えきれてない気がして。

だけどあなたは『最後』をくれました。

その後のことはどれだけ調べても確証はなかったけど、きっとあなたのところに行ける気がするの。

そしてあなたは私の代わりに泣いてくれました。全部伝わってたんだなって思いました。だからもう大丈夫。

 

最後の時まで大好きなあの歌を歌うの。

夢の中で待っててね。

 

 

『夢をみるひと』

 

いつもの街の景色も季節ごとに移り変わって

新しい物が増えていく

追いやられた古い物はどこに消えたんだろう

僕らは知らない

 

早すぎる流れに置いていかれた小さな雛鳥は

どこに行けばいいのか

迷子のままでも大人になれますように

そう願うんだ

 

見えなかった星が顔を出す頃にキミが笑う

ちっぽけな夢を見る

どうかこのまま変わらずに

 

僕らはそれぞれを互いに道導に見出して

共鳴するように輝いた

終わりに向かっていることを寂しく感じても

見えるように手を振るよ

 

ポラリスの見つけ方を教えてくれた音が

響き渡りますように

 

同じ軌道をなぞる様に高いところへ伸ばした手を繋いで行こう

特別じゃない世界の中で特別じゃないのなら

夢の中に託して歌う

 

白色矮星が見えたんだ胸に焼き付いたその色を変わらずに思い出そう

 

ちっぽけな夢を見よう 夢の中にいよう

変わらないままでいよう

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