その12

「なぁ、井上は結婚はしないのか?お前なら申請も通るだろ?」

「結婚かぁ、あんまり考えてないな。寂しさなんてアンドロイドで十分だし。子供なんて興味ないしな」

井上もずいぶん赤くなっている僕もそろそろ水を飲んだ方が良い。

「平は興味あるのかよ、結婚。」

「僕はダメだろうな申請に通れそうもないし、人に好かれる気もしない。アンドロイドもいるしね」

「好きにできるからな、アンドロイドは。人間じゃそうはいかない、気をつかわなきゃいけねぇし、心変わりなんかもしやがる」

「気遣いするのはアンドロイドだろうと変わらないでしょ。感情があるんだ、人間と変わらない。心変わりは、分からないけど、ぞんざいに扱えば嫌われたりもするかもしれない」

「そうなったら買い替えだな、手続きはめんどくせぇけど。」

このあたりの価値観の違いはどうしてもある。僕の考えが正しいなどと押し付ける気もなければ相手の考えを矯正しようなんてことも思わない。

それでも曖昧に嘘をついて肯定するのも嫌なので、返事の代わりにグラスを口に運ぶ。そして限界を感じて水を注文する。

「おいおい、もうギブかよ。こっちはまだ足りねぇんだぞ」

「酒なんて久しぶりなんだよ。やっぱり弱くなってる。」

「じゃあ水で良いからもうちょっと付き合え。」

そこから色々愚痴めいたものも聞いていたと思うがほとんど内容は入ってきてなかった。目も開いておらず曖昧な返事をして俯いている様を見てさすがに限界をさっしてくれたのだろう。

「今日はこんなもんかありがとよ。一人で帰れそうか?」

「あぁ、大丈夫、歩けるよ。」

「また連絡するわ。」

上機嫌に手を振り離れていく彼を見送り、僕も自宅に向かう。結局ずいぶん遅くなってしまったので終電は終わっていた。酔い覚ましも兼ねて夜風に当たりながら歩いて帰ることにする。

 

自宅に近づくと微かにピアノの音がする。エミは眠ることもないし当然と言えば当然だけど。こんな遅い時間まで僕の帰りを待っている、そう考えるととても申し訳ないように感じた。

「ただいま、遅くなった」

半分目は開いてないので転ばないように気を付けて靴を脱いでいると後ろから重みを感じる。エミが覆いかぶさっているようだ。

「もう、やっと帰ってきた。遅くならないって言ったじゃないですか」

「ごめん、電車、なくなったから、歩いてた。」

「事故にあったらどうするんですか。」

「うーん、大丈夫だと思うけど、でも、ごめん。」

「お酒を飲んだんですか?」

「そう、久しぶりだから、酔った」

「じゃあ、もうおやすみですね。ベッドに行きましょう。」

今度は僕がエミに負ぶってもらって運んでくれる。

「次の日、気持ち悪くても知りませんよ。」

「うーん、大丈夫だと、思うけど。」

アルコールの高揚感も相まって、いつも通り隣で手を繋いでいるエミをとても愛おしく感じた。

「エミは本当にいい子だ」

「何ですか?急に。」

「うーん、酔っぱらってるから…」

そう言いながらそっとエミを抱き寄せた

「もう、酔っぱらい」

今日はちょっと勝手が過ぎたかもしれない、明日起きたら謝っておこう。とりあえず今は隣にいてくれることに安心して眠ることにする。

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