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この世界には
マイクロフォンもスピーカーも
もちろんアンプリファーもないだろう

この響かない声で
上手くも使えず叫ぶだけ

綺麗に響くコンサートホールでもなく
優雅に応えるやまびこもなく
見栄と欲で聳え立った雑居ビルの裏路地

表通りの雑踏や
別世界の歓声や
吹き溜まりのため息に
この声はかき消された

わずかに見えたあの子に向かって
かけた酷く霞んだ声は
埃まみれの室外機に絡め取られた

僕はあなたを知っていても
あなたは私を知りもしない
一瞥すらもくれることなく
人の海に消えていった

もう届かないと
何度も目の当たりにして
なのに、また声を出した

マイクロフォンもスピーカーも
アンプリファーもないものだから
僕の周りにだけしか聴こえない
ただの僕の声だけしか聴こえない

ほんの僅かに音が止んで
ほんの微かに揺れて響いた
君は足を止めて
確かにこちらを見たのです