「はじめまして、あなたの名前を教えてもらえますか?」
目の前のその人は安心した顔をしている。
「良かった無事に動いた、僕の名前はタイラ ヨウ」
平 陽、所有者名と一致を確認
「あなたが私のご主人様ですね、私の名前を教えてくれますか?」
「それが君の名前はまだ思いついていないんだ、申し訳ないけどしばらく『キミ』って呼んでいていいかな?」
『キミ』君、二人称、親しみを込めた呼び方。私にはまだ名前がない、これは悲しい気持ち。でもいつか名前を付けてくれるこれは嬉しい気持ち
「かしこまりました、素敵な名前を付けてくださいね」
自宅に彼女が届いてから基本プログラムをいじる所から手を付ける。最近のモデルは登録済みの基本データをリンクさせる形で完了する大変便利な機能が標準だけど数世代前のこの子には手作業で打ち込まなくてはならない。簡単にリンクさせる拡張アプリもあるようだがそれすら今は入手困難になっていて価格も高くつく、本体だけでもかなり無理をしたので僕にはもうそんな余裕はなかった。仕事でアンドロイドを扱う機会があってよかった、基礎的な構造は理解しているから必要なところにいって拾ってきた情報をもとに進めていく。あとはずいぶん悩んだけど名前は決まらなかった、なんでもいいと言えば何でもいいのだけれど、だからこそこだわってしまうのは悪い癖か。しばらくは『キミ』と呼んでもうしばらく考えてみよう焦る理由もない。
「ここはご主人様の部屋ですか?」
「そう、ここは僕の部屋。悪いけどワンルームだから君の部屋はないけれど好きにいてくれたらいい。それと、ご主人様呼びは恥ずかしいから…下の名前を、そうだな君付で呼んでほしい」
「かしこまりました陽君、私はこれからなにをすればいいですか?」
「そうだね狭い部屋だけど掃除をお願いしたい、あとは簡単な食材しかないけど料理もお願い。それと何かあったら質問をしてほしい」
「掃除、料理、質問ですね、かしこまりました。さっそくお聞きしますが洗濯はしなくてよろしいですか?」
「ああ、洗濯は全自動のがあるから、脱いだものを入れるくらいは自分でするよ」
「かしこまりました、こうやってお話するのですね」
「そうだね、話をしよう。色々聞いてくれ」
「それではもう一つ。あちらにあるのは何ですか?」
「あれはギターだよ、昔からある楽器なんだ、昔は自分でこういった音の出るものを演奏して音楽を楽しいんでいたんだ」
「私にも個人用作曲プログラムがあります、よければ君の今の気分に合わせた曲をお作りいたしましょうか?」
「いや、いいんだ。僕は自分で音楽を作りたいんだ、自分で音を出したいんだ。それでもう一つお願いなんだけど
僕のリスナーになってくれないか?」
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