「あんた、今日は家にいる?」
姉からの連絡だ。3つ上の姉は3つ隣の駅の町に住んでいる。普段こまめに連絡を取ることはないが最近よく連絡をするようになった。自身の息子、僕からすれば甥にあたる、タカユキくんについてだ。
「タカユキがまたあんたの所に行きたいっていうから。今日は平気?」
「特に出かける予定もないから大丈夫だよ。」
おおよその到着時間を聞いて通信を切る。
「何かご予定ですか?」
「うん、甥っ子が家に来るんだ。」
「え!?甥っ子ちゃんですか!?おいくつなんでしょう?」
ずいぶんと目を輝かせて食いついてくる。そういえば昔は子供の相手をしていたみたいだからそういう年代は好きなんだろうな。
「今年で10歳になる。色々考えることが多いのか、最近学校に行かない時があってね、そういう時はうちに来るんだ。何をするでもないけど、うちには古いものが多いだろ?眺めたりちょっと触ったりして過ごしてるんだ。」
「学校に行ってないんですか?それっていいんでしょうか?」
「全く行ってないわけじゃないから平気だと思うけど、個人的には行かなくても良いとは考えちゃうんだけどね」
「陽君も学校行ってなかったんですか?」
「全く行ってない時期もあったね、だから気持ちは、分かる気がする。僕と同じ気持ちで行ってないとは限らないけど。」
「そんな考え方もあるんですね、私は立場上そんな風に考えたことありませんでした。」
どんな時代になってもそれぞれのコミュニティになじめない人はいる。自分のテリトリーを守る為になじませない人を作る人もいるけれど。
呼び鈴が鳴る、タカユキくんが来たようだ。聞いていた時間より少し遅かったが多少道草を食っていたのだろう、姉に心配して連絡をいれるほどではない。
「はーい」
と元気よく返事をしてエミが出迎えに行く。アンドロイドがいることは話していないのでビックリするかもしれないけどエミなら大丈夫だろう。
「初めまして、私エミっていいます。最近陽君のところに来ました、よろしくね!」
誰?って顔をしたタカユキくんは挨拶に返事もなく部屋に入ってくる。
「アンドロイドなんていつ買ったの?」
「1ヶ月くらい前かな、いらっしゃい」
「おじゃまします。」
タカユキくんは愛想はいい方ではない。この年で学校をサボりがちな子が年上に向かって愛想がよかったらその方が心配だ。
挨拶をスルーされたことも気にせずにエミはニコニコと戻ってくる。
「今日はどうしていく?」
「こないだ借りた本返しにきた。おもしろかった。ほかにもある?」
「汚したりしてないだろうな。紙の本は貴重だからそんなに種類はないんだよね、あとは読みづらかったりするし、タブレットの方が面白いのは多いんじゃない?」
「教科書みたいでつまんないんだよ、漢字の勉強にもなるし」
「勉強は嫌いじゃないの?」
エミも会話に参加してくる
「新しいことを知るのはたのしいよ、学校の勉強はおもしろくないからつまんない」
「タカユキくんは好きな事はあるの?」
「べつに。とくに好きなことなんてない。おもしろいほうがいいだけ」
「そっかぁ、陽君は音楽が好きだよね。私も歌うのが好きなの。」
「陽君はアンドロイドにまで陽君って呼ばせてるんだね」
「ご主人様は偉そうで恥ずかしいんだよ」
「大人はみんなえらそうにしたいんじゃないの?」
意地の悪い笑みを浮かべてタカユキくんは言う
「『大人』なんて一括りにしちゃダメだ。ジャンルとかカテゴリーなんてものは名目上の区別でしかないからね。それに僕はまともに『大人』に区分できるほど、まともな大人じゃない」
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