その1

音楽はもう個人のものだ。

自分に合わせた曲をAIがそれぞれ作ってくれる。過去の気に入った曲も参照されて随時新しいものが出来上がる。そしてその曲を作ってくれるAIはそれぞれが所有する。AIの形もそれぞれの趣味に合わせあれ前時代の音響機材を模したモノ、ボーカルの入っているものであれば人型も作られている。そういった音楽機能の調整、修理が僕の仕事だ

 

「お待たせいたしました、終わりました」

「ご苦労様、ずいぶんかかったね」

「トラッシュデータがかなり溜まっていて整理に時間がかかってしまいました」

「そうか、古い型だから自動でやっちゃうと要るデータも消えちゃうことがあってうかつに使えないんだよね、やっぱり新しいのがほしくなるなぁ」

「それでもこうしてメンテナンスするのはお気に入りなのではないですか?」

「そうだね、なんだかんだ思い入れがあって簡単に捨てられないんだよ」

そう言ってニヤけながら依頼主はAIをなでる女性らしい体型のアンドロイドタイプだ。最低限の生活が保障され健康的な身体を維持するための食量は配給されるようになって数十年、生きていく為に仕事しなくても良くなった人類は自身の欲を満たすために仕事をする。食事も配給のありきたりなものに満たされない人は様々な食材を買い料理をする、自分で車を運転する必要もなくなったがそれでも自分で運転したいとこだわる人は前時代のタイプの車を所有して運転する、事故の危険性を加味されて免許のハードルはずいぶん高いけれど。

 

そしてこのオーディオAIやもろもろの機能の付いたアンドロイドも嗜好品の類でいくつも所有している人もいる、その数を自慢しているのか他の何かを埋めるためなのかはわからないけれど。アンドロイドなんてものは出回り始めたころは高額だったけど今は生産も安定して価格が抑えられたものも増えてきている。

 

「それではまた何かありましたらご連絡ください」

「いつも助かるよ、またよろしく」

今日の現場をあとにして自宅に向かう。住居も最低限のものは国から提供してもらえる本当に生きていくだけなら何もしなくていい。そんな世界で僕は生きている。

 

そして僕が仕事をする理由はなにか。

音楽を作るためだ。とはいっても仕事としてではなく、全く持って自分自身のためである。

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