その4

「リスナー、聞き手、聞く人ですか?」

「そう、僕の音楽を聴いてほしい」

「それは楽しそうです、でもわざわざアンドロイドに聞かせなくてもほかに聞いてくれる人はいるのではないですか?」

「このご時世、人間のやる曲、それも素人の曲を聴くもの好きは珍しいよ。その珍しい人たちも若くて魅力的な人たちの曲を聴く」

人の演奏には波がある最初から最後まで完璧にとはいかない、このブレをグルーヴと表すこともあるけれど現代の作曲AIにかかれば再現可能だ。ボーカルも昔の合成音声から躍進して完全に人間の声を再現できるようになった、感情的なノイズでさえも。こうなると人間の出る幕はない、楽しむ音楽はAIがいれば何の問題もない。

「だから僕は聞いてもらうために君に来てもらった、一番の目的はそれだから他の家事とかはむしろ君が退屈しないようの仕事かな」

「退屈ですか?面白いですね、アンドロイドが退屈するでしょうか?」

楽しそうに笑顔を浮かべながらその子は言う。

「アンドロイドにも感情はあるからね、君が笑うのがその証拠。確かにプログラムに組まれていることでもあるけど、それをどう使うかを考えているのがAIなんだからそれは紛れもなく感情なんだって社会的にも認められてるしね」

「私が創られた時とずいぶん扱いが違うんですね」

「色々とあったみたいだから、大きい戦争にもなったし。でもその中でやっぱり昔の映画みたいに奇跡を起こす人とアンドロイドがいて今じゃ対等な関係だ。ロボットが感情を持つことがあり得ないだとか奇跡だとかそんな話は昔から人間が何度も想像して物語にしてきた。事実は小説より奇なりってね、人間の想像の範疇なんて実現して当然だと思う」

人間の形を模して自分で考える頭があってとなれば感情という思考回路はおのずと出来上がるというのが現代の常識となっている。なぜそうなるのか、いわゆる『心』はなぜ出来上がるのかその創造方法、レシピのようなものは未だに確立されていない。でもそれは人間も同じだ。『心』がどこにあるのか、身体を切り開いても頭を切り開いても見つけることは出来ない。

「そういえば、いくら感情があっても不思議じゃないんだけどそれでも起動したばかりでずいぶん感情豊かかと思うんだけど」

「ごめんなさい、実は前のデータが残っているんです。不思議な別れ方をしたので…」

ずいぶん決まりの悪そうな顔をする、こんな顔を見せられると人とアンドロイドが大差ない事を実感する。

不思議な別れ方、前のオーナーとのことだろうな。

これが『いわくつき』って言われていた理由なのか

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