その14

無機質な部屋で維持装置に繋がれていつものように手を繋いでる。技術の進歩は人間の苦痛すらも取り除いてくれるようになり順調に寿命を全うしていれば穏やかに終わりを迎えられるという訳だ。

「そろそろお別れなんだなぁ」

「何かしたいことはありますか?」

エミは笑顔を見せてくれるがいつも通りであるはずがない、この状況でいつも通りでいられる子じゃないのはずっと一緒にいたのだから分かる。

「僕ららしく最後も歌って、なんて考えたりもするけどさすがに歌ったり楽器を弾いたりは無理だもんね。だから最後は言いたいことを言って終わりにするよ。」

分かっていても『終わり』という言葉を口にすると胸が締め付けられる。

「言いたい事って言っても恨み言とかじゃないから安心してよ。」

「そんなの、思ってないですよ。」

「君には感謝しかない。君がいたから僕は生きようと思えた。今の時代、命を繋ぐだけなら何の努力もいらない。でもそんなの『生きてる』なんて言わないだろ。もちろん僕が君を招き入れたんだけどさ、それでもエミだったからここまで来れた。僕は人を信じるのが苦手でね。いつか嫌われてしまうんじゃないかって思うと怖くてしょうがなかった。音楽もそう、自分をさらけだしてるものもだからなおさら、他の人になんか聞かせられなかった。一緒に歌ったり本当に楽しかった、ありがとう。

あとは、僕がいなくなった後のことなんだけどさ。エミはどうしたいかと思って」

「私がですか?」

「そう。実はエミの動力源って更新してなくてこのままだと1年くらいで動かなくなるんだよね。更新するようならタカユキくんを次の所有者になるように話はしてあるけど。エミはどっちがいいかと思って。」

「私は…」

エミは処理が追い付かないようで言葉が続かないようだった。アンドロイドもこんな顔するんだなと最後まで驚かせてくれる。

「私は陽君がくれた『エミ』って名前が大好きです。いろんな歌を歌って一緒に楽器を弾いて、私も十分すぎるくらい楽しかったです。私はこのまま、陽君の『エミ』でいたいです。」

「ありがとう。そうそう、ずっと言いそびれてたんだけど、『エミ』って漢字で書くと『笑』いが『美』しいって書くんだよ。なんか恥ずかしくて言えなかった。あと、これは最後のわがままなんだけど、エミの最後の時間は歌ってすごしてほしい。僕みたいじゃなくて色んな所で好きなようにさ。」

「それは、この上ない幸せですよ」

「そんな顔しないでよ、涙は人間の特権なんだ、だから代わりに僕が泣く、悲しくて泣くんじゃなくて、嬉しくて泣く。

まったく、いい人生だった」

涙を滲ませ、僕は夢をみることにする。

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